にこにこ通信 40新年号

 デイサービスセンターにこにこを設立して、4年が経ちました。今、にこにこには、認知症の高齢者や重いしょうがいをもつ人、知的しょうがい、自閉症、ダウン症、肢体不自由の子どもたちなど、21人の方が来られています。
 かずこさんは、設立当初からの利用者さんですが、最近になって生活動作の面での衰えが目立ってきています。かずこさんが、最初にこにこに来られた頃は、自分で食事もしっかり食べられ、よく動きまわって、目を離すと「もう帰るわ」と言って部屋を出ていこうとされることがよくありましたが、最近では自分から話をされることもほとんどなく、歩くのも足がなかなか前に出てきません。食事もすりつぶしたものしか食べることができず、夏頃には食べたものを口から出されることが続きました。家族さんが、主治医に相談されたところ、寝たきりになることを想定して、口から食べられなくなった時、おなかの外から胃に小さな穴をあけ栄養剤を入れる胃ろうをすすめられたようです。でも、ひょっとして食べ物を口から出される原因が、入れ歯の不具合にあるかもしれないと、入れ歯の治療をされたところ、その後はスムーズに食事をされるようになってきています。そんなかずこさんですが、ズボンの裾をめくりあげられることがよくあります。その行為が何を意味するのかはわかりませんが、利用者さんが多くて、かずこさんのそばに職員がいない時によくされます。きっと「私をほったらかしにしないで、私のことも気にかけてよ」という意思表示なのかなと思います。人は常に誰かに気にかけてほしい、そばにいてほしいということを、かずこさんはズボンの裾をめくりあげることによって教えてくれているのだと思います。
 また、11月に白内障の手術をされたひろむさんは、手術後は人が変わったように元気に過ごされています。高齢者の多くは白内障をもっておられますが、認知症がある場合は手術をされるのは容易なことではありません。ひろむさんも、1回目の手術の時には目を開けず、日をおいて2回目に全身麻酔で手術を受けられました。退院後、にこにこに復帰されてからは、今まで他の利用者さんとしようとしなかったカルタも一緒にし、百人一首を詠んで内容の説明もしてくださいます。百人一首を説明するときの穏やかな口調は、大学の教官であった頃の姿そのもので、利用当初、厳しい顔で「ここでこんなことをしていられない。家の者が待っているから、家に帰らなアカン」とくりかえしておっしゃっていた頃とは大違いです。
 認知症がある高齢者の場合、とにかく入院は家族にとっては大きな負担です。手術ともなると、点滴や患部の包帯をとらないように絶えず見守りをしなければなりません。ひろむさんの場合も、家族が徹夜で見守りをすることができたから手術にふみきることができたのだと思います。認知症がある場合、言葉で人に伝えるのは困難で、絶えずその人に寄り添いながら、ちょっとした動作の変化をキャッチし、病気や身体の異常を発見しなければなりません。
 昨年の世相を表す漢字に「絆」が選ばれました。昨年は、東日本大震災や台風12号等の相次いだ災害から地域や社会、家族の絆の大切さが見直された年でした。総務省の2010年国勢調査によると、総世帯に占めるひとり暮らし世帯の割合が3割を超え、夫婦と子どもで構成する世帯を上回って最多となり、小規模世帯の増加が発表されていました。少子高齢化と小規模世帯の増加により、地域や社会、家庭の介護力は年々低下しています。
 八木一男福祉会は、住宅地にあって、地域の人たちとつながりながら、誰もが気軽に足を運べ、そこに行けばホッと息をつける場所。そんな「居場所」を今年も地域の資源を活用して広げながら、「助け合って共に生きる」地域づくりをすすめていきたいと思っています。