にこにこ通信 39号
認知症の方は、記憶力が低下して日常生活が不自由になります。
ご本人もそういった自分にとても不安を感じ、混乱した状態でおられるのだろうということが、介護をしているとよくわかります。
ヨシさん(85歳)は、お連れ合いのヒサさんが入院されてからさらに不安がつのり、物忘れがはげしくなってきているようです。
いままでもスタッフや来訪者、ほかの利用者さんに「あんた誰? どこから来たの? 夫はいるの? 仕事は? 子どもは何人?」などと質問を繰り返し、答えてもすぐに忘れるのでおなじことを何十回もくりかえすということがありました。
ヒサさんの入院によって、仲の良い夫のいない毎日になり、さみしい思いがつのっているようで、「私のお父さんとお母さんは、生きてるなあ」や「悪いことせえへんなあ」「怖いところに連れていかへんなあ」など、なんどもなんども不安な気持ちを表現されます。
スタッフはそのつど、なんどもなんども「ヨシさんのお父さんとお母さんは、天国ですね」
「何も悪いことしませんよ、だいじょうぶですよ」「怖いとこに連れて行きませんよ、楽しいことしましょうね」と、できるだけヨシさんに悪感情を抱かせないように対応をしています。
認知症の方は、記憶にないので、はじめてのつもりで相手に働きかけているのですが、認知症でない利用者の方にとっては、苦痛になってきます。
「何回も聞かれたら、頭が痛くなるわ~」とほかの利用者の方がおっしゃったので、名前のシールを胸にペタンと貼ってもらうことにしました。
ヨシさんは、シールの名前を読んで、「○○の○○さんですか、私は○○ヨシと申します。どうぞよろしくお願いします」ととても友好的に対応されました。
目で見て、情報が得られたことにより、安心され少し落ち着かれたようでした。
そのあとは、とても陽気ないつものヨシさんに戻られて、タツさんと手をつないでカラオケを歌われ盛り上がっておられました。
認知症の方は、介護者の気持ちを映す鏡のような存在だということはよくいわれています。
介護者がイライラして接すれば、認知症の方もさらに不安定になり、やさしく共感をもって接すればおだやかな表情になっていかれます。
ヨシさんはときに「みんな親切やなあ、大事にしてくれてうれしいわあ。ここの人はみなやさしいなあ、一生忘れへんわあ」といってくださいます。
スタッフが「ヨシさんが、ええ人(良い人)やから…」というと、「いやいや、わたしみたいな、たいしたことないねん」というときもあれば、「また! そんな上手言うて!」と怒ったような表情をされたりと一日のなかでも大きく波があります。
ヨシさんは時として、他の利用者さんとの間で、不協和音をかもしだすこともありますが、「デイサービスセンターにこにこ」のムードメーカー的存在でもあります。
日々変化していかれる認知症の方のケアは、とても難しく試行錯誤の連続ですが、お一人お一人の方が少しでも安心して心地よく過ごしていただくことを目標に工夫の毎日です。
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