にこにこ通信 163号 ~トシさんが語る うらやましい話~
山の木々が色づき、宇陀はすっかり秋の中です。デイサービスセンターにこにこの桜の木も紅葉して、落ち葉清掃に追われる毎日です。
みんなで、体操をしたりおいしいお昼ご飯を食べたりして穏やかに過ごしていた日常に、異変が起きたのは11月の初めの木曜日でした。毎週月曜・火曜・木曜と隔週の金曜日にご利用されているトシさんですが、木曜日の来所時の様子がいつもと違う感じでした。脱いだ上着のかけ方がわからなかったり、手洗いする洗面所の場所がわからなかったりということがありました。でも、いつものように他の利用者さんやスタッフたちとも会話ができていました。
トシさんは、おひとり暮らしでアルコール依存があり、自分でも「あんまり飲んだらあかんな」と言いながらも、ついつい飲み過ぎてしまうことがあるので、昨日は飲み過ぎたのかなとスタッフたちは思っていました。
しかし、その事がトシさんの体調不良のはじまりでした。次の日は、食事の時に箸の持ち方がわからなくなり、スタッフが食事介助をしました。
それからは、ご自宅から突然いなくなって市役所の職員やにこにこのスタッフがさがしたり警察に保護されるということがあり、日中はにこにこで過ごしてもらい夜は急遽ショートステイのできる事業所をさがしたりして、市役所、にこにこ、あんしんセンターなどが対応しました。幸いショートステイを受け入れてくれる事業所が見つかり、できない日はにこにこのグループホームで泊まってもらいました。その間も、ご本人はいろいろな幻覚や幻聴があるらしく、
「今、オレは3人の女の人と付き合ってるねん」
「3人とも大金持ちやからみんなに、ひゃくまんえんやるわ」
「オレは頭の中で、人と会話ができるねん」
「なんでこんな能力がついたんやろ」
となかなか楽しい幻覚のようで、それを聞いたわたしたちも
「ええですね。トシさん、今、モテ期なんですね」
「ひゃくまんえん、もらったら何に使おうかな」
と、一緒に楽しんでいます。
結局、トシさんはしばらくの間入院されることになり、ご本人も納得されて、にこにこの近くの理髪店へスタッフと行かれ、そこでもモテモテの話をされ、理容師さんにうらやましがられて、まんざらでもない様子でした。
認知症やトシさんのように幻覚による言動については、ありえない話であっても決して否定することなく共感して聞く姿勢が大切だと教えてもらったことがあります。
トシさんは、「来週の金曜日には退院するから、その時にひゃくまんえんやるわな」と言い残して、入院されました。
トシさんの退院は、いつになるかわかりませんが、退院されたらまた、にこにこを利用していただきたいと思っています。
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