にこにこ通信 28新年号
にこにこ通信28
厚生労働省が発表した「09年度福祉行政報告例結果の概況」によると、09年度の生活保護の被保護世帯数が127万4231世帯となり、児童相談所の児童虐待対応件数も4万4211件で、ともに過去最多でした。被保護世帯の世帯類型では56万世帯(全体の44%)が高齢者ですが、景気の低迷により現役世代の受給者も増加しています。
また、警察庁が08年の全国の自殺者3万2845人の動機や年齢別などの調査結果を公表しましたが、20歳代、30歳代の自殺率が過去最悪となり、動機別では「失業」や「生活苦」が大幅に増加しています。この3万2000人という数字は、偶然にも一年間に孤独死された人の数とも一致しています。現在の我が国の社会を無縁社会、格差社会と言われますが、自殺者や孤独死といった悲劇を生まない社会のありようを真剣に論議し、早急に新たなセーフティネットを構築していかねばなりません。年越し派遣村村長で政府の内閣府参与の湯浅誠氏は、現在の社会において、必要な「本当の自立」とはひとりで生きることではなく、排除のない、つながりあいの中で生きていくことで、このつながりを育む力や機会を逸したために「貧困」に陥る現実がある、としています。そして、貧困を自己責任とする風潮を批判し、弱い立場にいる人への排除のない、誰もが人間らしく生きることのできる「強い社会」を実現することを訴えておられます。
こうした「強い社会」をつくるため、八木一男福祉会は、どんなに重いしょうがいがあっても、どんなに高齢になっても、住み慣れた地域で暮らし続けられるため、介護保険関連事業やしょうがい福祉サービスを中心にして、様々な困難を抱えた人たちへの支援を行ってきました。
そうした支援を行っている人のなかに、たつ子さんという女性がいます。彼女は重い脊椎のしょうがいをもっており、ひとり暮らしをしています。元々吉野郡の山深い地域で父親と暮らしていましたが、父親が入所施設に入り、それまで利用していたホームヘルプサービスを利用できなくなったためにひとりでは生活ができなくなり、2年前に宇陀市に転居してきました。彼女の脊椎はもろくなっているため、転んだりすると命にかかわりますので、ひとりで歩くことはできません。今、彼女は毎日の朝、昼、晩のホームヘルプサービスと入所施設のショートステイ、病院や買い物での外出介助のサービスを利用し、民生委員の見守りや緊急時には緊急通報により登録したボランティアが駆けつけてくれます。そして、彼女の支援について必要に応じて関係者によるケース会議が開かれます。彼女の場合は、行政の福祉担当者としょうがい福祉サービスを提供する事業所が会議を行い、彼女が生活できる環境を整えてから転居し、今日までの継続した支援が行われてきていますが、こんな仕組みを社会の隅々につくり、様々な困難を抱えた人にチームで支援していくことが必要です。
昨年から、本人の力だけでは自立することが難しい求職者の状況やニーズに合わせて、制度横断的に支援する「パーソナル・サポート・サービス」のモデル事業が全国ではじまりました。パーソナルサポーターと呼ばれる専門家が生活上の問題を抱える当事者一人ひとりに合わせ、「個別的」「継続的」「包括的」な支援をめざすもので、政府としてはモデル事業の評価を経て、2012年度からの制度化が計画されています。しかし、こんな「個別的」「継続的」「包括的」な支援を行うためには、まずは支援が必要な人を発見するところから始めねばなりません。
かつて、社会に向こう三軒両隣の繋がりが生きていた頃、地域には「おせっかいで、世話好き」なおじさん・おばさんがおり、家庭や地域の問題を解決するのに一役かっていましたが、そんな「おせっかいさん」を今の時代にふさわしい形で再び登場してもらってはどうでしょうか。
隣保館の運営が統廃合と閉館といった後退の方向に弱められようとしていますが、隣保館を「おせっかいさん」のたまり場にして、地域の様々な情報が集中できるセンターとしての運営をめざしてはどうでしょうか。今年、八木一男福祉会は様々な地域の問題を「ほっとけない、なんとかせなあかん」という気持ちをもつ「おせっかいさん」を養成する活動に取り組んでいきたいと思っています。
ところで、昨年「にこにこ」に珍客がやってきました。春にウサギが突然やってきたかと思えば、10月にはリスがやってきました。リスは家のブロック塀を走って裏の公園に走り去っていきましたが、ウサギは2日後に再びやってきて草を食べたりベランダの下に入ったりしてしばらくとどまり、「にこにこ」の面々は大喜びでした。結局、ウサギやリスにとっては「にこにこ」は「居場所」にはならなかったようですが、今後も認知症やしょうがいをもつ人が地域の「居場所」として「にこにこ」を利用してもらえるよう、運営を行っていきたいと思っています。
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