にこにこ通信 32号

にこにこ通信32
 デイサービスセンターにこにこでは、午後のレクリエーションの時間にカラオケをしています。最近、買い換えたカラオケの装置は採点機能がついていたり、入っていない曲はパソコンでダウンロードしたりできるスグレモノです。 
 85歳のヒロさんのお気に入りの曲は、『戦友』や『ラバウル小唄』などの軍歌です。戦争に行った訳ではないヒロさんですが、カラオケの時間ではない時もひとりでうたっていらっしゃいます。この2曲は、元々入っていなかったのでダウンロードして入れました。
若い頃、勉強はよくできたけれど、体の弱かったヒロさんは身体検査の時「お国の役にたたない」と言われて徴兵を免除された経験があるそうです。その時代の男子で兵隊になれないということは、とても大きなコンプレックスになったようです。そのコンプレックスが忘れられないからなのでしょうか、65年以上が過ぎた今でも軍歌を口ずさんでいらっしゃいます。「中学の学生は、兵隊になるものと決まっていましたからね」というのも、ヒロさんの口癖です。
また、以前利用されていた方でシベリアでの抑留経験がある方もよく軍歌を歌っていらっしゃいました。その方は、『異国の丘』という曲を歌ってシベリアでの過酷な重労働のことや寒さや飢えで亡くなっていった戦友の話などをよくしてくださいました。もう一人の91歳の方は、ビルマで通信兵として従軍した話をたびたび聞かせてくださいます。
ヒロさんが歌っていらっしゃるときは、他の利用者さんも一緒に「ここはおくにをなんびゃくりぃ~」と声を合わせていらっしゃいます。
80代以上の方々にとって軍歌は、戦争に行った人にも行かなかった人にも特別な意味を持った歌のような気がします。
ある時代の教育・社会の風潮というものが、ひとりひとりの心に与える影響の強さということをつくづく感じます。
 しかし、戦後生まれのスタッフにとっては、軍歌はやはり違和感があります。せめてもの抵抗として『フランシーヌの場合』と『イムジン河』をダウンロードしました。
 ヒロさんが来られる日のデイサービスセンターにこにこの午後は、軍歌と反戦歌と演歌でにぎやかに過ぎていきます。