にこにこ通信 36号

初めて介護の問題に直面したのは、約30年前に祖母が認知症になった時でした。
祖母は、もの取られ妄想や徘徊があって、私たち家族はみな当惑し、絶望感や喪失感、悲しみを経験しました。当時、介護は家族がするのが当たり前で、誰も介護できる人がいない場合のみ老人ホームへ措置入所するという二者択一しかありませんでした。今のように介護保険やデイサービスもなく、認知症への理解も少なかったように記憶しています。
いま、認知症患者は200万人以上とされ、超高齢社会に伴い日々増加しているなかで、認知症の研究・医療の進歩により「認知症は治療できる」「認知症は予防できる」時代になろうとしています。
今年に入ってアルツハイマー型認知症の治療薬が、新しく3種類発売されました。
認知症の薬といえば約10年間「アリセプト」しかなく、認知症の早期に適切に飲めば、症状の改善に効果があるとされるものの、副作用の問題も指摘されていたため、介護従事者として、利用者さんの服薬介助をするたびに、もっといい薬が早くできないものだろうかと思い続けていました。
体に貼るタイプの「イクセロンパッチ」、飲み薬の「メマリー」「レミニール」など症状改善薬が発売開始となり、認知症の方やその家族にとって、選択肢が多くなったということで希望が広がっています。
薬以外での療法もさまざまな場面で、実践されています。
「音楽療法」…ピアノ演奏に合わせて歌うことやカラオケなどで懐かしい歌を歌って、過去の記憶を刺激する効果があるといわれています。
「デイサービスセンターにこにこ」でも、ほぼ毎日、唱歌カルタや歌のファイル、カラオケで懐かしい歌を歌っていただいています。認知症の方もそうでない方もそこに参加している方皆さんが、一体感を持って、とても豊かな表情でイキイキと歌っておられる姿は、圧巻です。
「回想法」……昔話を積極的にしてもらうことで、過去の記憶を呼び起こし、コミュニケーションを図りながら、自尊心を取り戻すことができるといわれます。
「にこにこ」でも、卒業アルバム、往年の映画俳優の写真集、旧制中学の校歌、昔のしりとり歌などをきっかけに昔話に花が咲いています。そんな時利用者さんたちは、自信にあふれた顔ではっきりとした話をされ、だんだん感情が安定していく様子が見られます。
このほかにも、介護現場では、陶芸療法や園芸療法などさまざまな試みが実践され、笑顔が増えた、表情が豊かになったなどの効果があげられています。
また、たとえ認知症になって徘徊があっても、周囲の人が見守るという意識をもって、地域全体で「自由に徘徊できる街づくり」をしていこうという提案もさまざまな場面で見聞きします。
道路の整備や安全対策、地域住民の認知症への理解、認知症の方との共存意識の確立など課題は多くても、「みんなが見守れば、徘徊ではなくて認知症の方のゆっくりとした散歩」という姿は、近い将来に実現可能な一つの理想ではないでしょうか?
30年前には、想像もつかなかった「認知症が治る時代」がもうそこまで来ているといわれています。
認知症になっても、絶望したり、悲しんだりしなくてもいい、安心して年をとっていける、そんな日が近づいていることは、私たちに勇気を与えてくれます。