にこにこ通信 60号 ~他者を思いやる心の育みを感じて…~

 特別支援学校の高等部を今春に卒業した、こうちゃんは、ウィークデーは作業所に通い、土曜日と祝日は「にこにこ」での行動援護を利用しています。
 こうちゃんは、お出かけが大好きなので毎回、気に入りそうな所をピックアップしておいて車で訪ねます。
 職員二人が付き添って、こうちゃん宅を朝に出発し、午前の訪問先へ、お昼はレストランなどで昼食をとり、次に午後の訪問先へ、途中でおやつを食べて、夕方に帰宅という日程です。
 行き先については、その都度、写真を見せて示しますが、こうちゃんはいつも、次はどこへ行くのか楽しみにしてくれています。これまであちこちの公園、科学館、博物館、記念館、体験施設、プール、山や川や滝などの自然等を訪ねてきました。そんな小旅行の数々の中で、こうちゃんは新しい経験をし、新たな成長を見せてくれています。
 その中での一番の成長は“思いやり”です。以前は、自分のしたいことが一番でしたが、職員との行動を重ねるうちに、そのペースに合わせたり、助けたりしてくれるようにもなりました。
 神野山(山添村)の鍋倉渓を登るときのことです。こうちゃんは階段が大好きで、ここのハイキングコースは駐車場から山頂まで、約1キロメートルの階段になっていますが、以前は自分のペースで駆け上り、職員が走って追うような形でしたが、今は一緒に歩き、少し離れてしまうと職員を待っていてくれます。
 レストランでの昼食の際なども、以前は落ち着けなくて、まず席に付くことも大変でしたが、今は初めての場でも、職員と共に落ち着いて入り、そして皆の食事がそろうまで、食べるのを待ってくれるようになりました。
 トイレでも、以前は自分が用を足せば、トイレから飛び出していましたが、今は職員が済むのもトイレの中で、待ってくれるようになりました。
 そして、職員が最も感動することが最近ありました。それは、大宇陀の「心の森公園」を散歩していたときのことです。草むらを歩いて出たら、皆のズボンの裾に、ひっつき虫(ヌスビトハギ)がいっぱい付いていたのです。職員二人はまず、こうちゃんのズボンいっぱいに付いた“ひっつき虫”を、額に汗して取り払いました。二人がかりでも、5、6分はかかったでしょうか。それから、職員が自分たちのを取りかけた時です。今度は、こうちゃんが職員のズボンに付いた“ひっつき虫”を、一緒に取り、手伝ってくれるのです。それも最後まで、全部きれいに取れるまで手伝ってくれました。なんて優しいんだろうと、私は強く感動したのを覚えています。
 公園などで大好きなすべり台を他の子供たちが利用している時にも、職員が指導することなく、ちゃんと列に並んで順番を待てるようになりました。
 半年ほどの間にこうちゃんは職員と共に行動し、経験を重ねる中で成長しているのです。私たち職員も、こうちゃんのそんな“成長”がさらに続くようにより良い支援に努めたいと思います。