にこにこ通信 71号

 デイサービスセンターにこにこの玄関に、表彰状が掛けてあります。、第14回「私の見た人権」写真コンテストで、佳作に選ばれたときのものです。写真のモデルになられているカズさんが、先日亡くなられました。78歳でした。
 菟田野の桜の名所でのスナップで、桜と同じ色のベストを着て、満開の桜の花の下を介護士とともに散歩されている写真です。その頃は、手をつないでなら歩くこともでき、いっしょに歌を歌ったり食事をしたりしていました。
 カズさんは、デイサービスセンターにこにこを開設して間もなくの冬からご利用されていました。当初は、とてもお元気で得意のカラオケを楽しみ、食事も少しお手伝いすれば自分で食べられていました。気分の良い時は、ご自分の若い時のことや、息子のこと、一緒にカラオケをしていたお友達のことなどをたくさん話されていました。
 今日の朝ごはんを食べたかどうかはわからないけれど、30年前に息子が秋祭りの太鼓台に乗って、うれしかったことは鮮明に覚えていらっしゃいました。
 また、季節ごとのお出かけも楽しみにされていました。春の桜、夏の滝見物、秋の紅葉など、いろいろな所へ一緒に出かけました。
 家では、お連れ合いが親身に介護をされていましたので、介護度が最重度の要介護5に認定されても、デイサービスを利用しながら在宅での生活を続けていらっしゃいました。仕事をしながらカズさんの思いを推しはかって、できるだけカズさんに寄り添って暮らしていらっしゃいました。夕方、仕事帰りに「カズ、みてもろてたんか。帰ろか」と言ってにこにこに迎えに来られるのが日課でした。少し背中の丸くなった70代のご夫婦は、手を取り合ってスロープをゆっくり下って、車に乗り込まれます。まるで、つき合いはじめたばかりの20代のカップルのように。
 今年に入ってから、、少しずつ食が細くなったカズさんは、自力では歩けなくなり、会話も難しくなっていき、入退院を繰り返されるようになりました。口からの食事が難しくなり、胃ろう造設の提案が医療者からあった時、お連れ合いは、それでカズさんの延命ができるならばと胃ろうを選択されました。カズさんに胃ろうがつくられても、デイサービスを利用しながらの在宅生活を強く希望されていたお連れ合いでしたが、負担が大きすぎるということで退院後は、特養に入所されることになりました。入所されても、たびたび会いに行かれていたようです。
 この秋、急に寒くなった10月にカズさんが入院されたとケアマネジャーの方から伺いました。そして、11月入院先の病院で亡くなられました。
 だんだん自分のことも、お連れ合いのこともわからなくなっていくカズさんとの生活は、たいへんだったと思いますが、お二人にとっては、幸せな日々であったのではないかなと思います。もし、そうであったなら、そういう暮らしを少しでもお手伝いできたことをわたしたちは、うれしく思いたいです。