にこにこ通信 82新年号

 新年明けましておめでとうございます。新しい年がスタートしましたが、戦後70年の昨年は、安保関連法案の成立を機にして、我が国が戦争の出来る国へと大きく舵をとった年でした。また、格差社会の進行を実感した年でもありました。子どもの貧困や下流老人の存在が問題となり、年金や生活保護等の従来の社会保障だけでは、生活に困難を抱える人たちを支えきれない現実が、新たな社会問題となった年でもありました。世間では、アベノミクスが景気の低迷を打開する道であるかのように取り上げられていますが、低所得の人たちが増えれば増えるほど消費は低迷し、景気は良くなるはずもありません。将来に希望がもてる生活。そんな生活が送れることを支援するため、デイサービスセンターにこにこは日中支援の事業所ですが、デイを利用される方や家族の皆さんが、明日も頑張ってみよう、と思って一日が終われるよう、地域で日々サービスの提供に努めています。
 今にこにこには、精神障がいやアルコール依存症、薬物依存症、認知症や難病のある方、知的障がいや自閉症の子どもたち等、様々な困難を抱えた人たちが利用しています。そのなかで、トシさんは、アルコール依存症でテンカンの発作もあり、今まで入退院を繰り返してきました。家族とは別れて母親と一緒に暮らしていますが、母親もまた薬物依存症で通院の日々を送っています。トシさんが何故アルコール依存症になり、妻や子どもたちと離れて暮らすようになったかは、私たちには分かりませんが、事業の失敗や勤めていた会社の倒産といった、不幸なことが重なったことも、原因しているのだと思います。トシさんが入院していた去年の8月、息子さんがトシさんを訪ねて病院に来たそうです。結婚すること、相手の女性が看護師であること、家族のこと。その時、トシさんは今の自分の状態に涙が出てしかたなかったそうです。しかし、トシさんはアルコールと完全に手を切ることが出来ず、医者通いの日々は続いています。私たちは、何とかトシさんが立ち直るのを支えていきたいと思っています。
 また、今年は放課後デイサービスを利用している、ヒロ君とアヤちゃんが特別支援学校を卒業して社会に巣立っていく年です。アヤちゃんは就労支援の事業所に、ヒロ君はにこにこの生活介護というサービスを使って日中を過ごす予定ですが、特にヒロ君は、小学部の2年生からのつきあいで、支援を始めて11年になります。利用し始めて間もない頃は、彼の支援は日々手探りの状態でした。今では、介助者の手助けでスプーンをもって自分で食事もできるようになり、タブレットがあれば、一人でも落ち着いた時間を過ごせるようになってきましたが、以前は大きな声を出し続けたり、自傷行為、他害行為が激しい子どもでした。昨年の6月と11月、ヒロ君の職場実習をにこにこで引き受けましたが、その時は、アキ缶つぶしや古新聞、ダンボールをリサイクル業者の元へ運ぶ作業をしっかりと行ってくれました。11月の実習では、椎茸とヒジキの袋詰めと販売に取り組み、持ち前の笑顔をふりまきながら、商品を渡してお金を受け取る作業もこなしました。「18歳の少年がそんなことぐらいで」と思われる方もおられるかも知れませんが、重い障がいをもつヒロ君が、品物を渡してお金をもらうという作業ができたということは、彼にとって大変なことなのです。彼は言葉で自分の気持ちを伝えることはできませんが、物を販売することを通してつくる他人との関係は、重い行動障害がある人を理解するため、大きな意味をもっています。きっとこの笑顔が彼の生きる力なのでしょう。
 昨年もまた、長年の介護疲れによる、介護殺人や介護心中といった残念な事件が報道されました。事件に共通しているのは、真面目で一生懸命に介護していた親や子どもが加害者になったということです。事件後、あんな真面目な人が何故、という声がよく聞かれますが、真面目に一生懸命に介護すればするほど、周りが見えなくなってしまうということもあります。不眠で心身ともに疲れ果てた介護者が加害者になり、事件当時はうつ状態と診断されたケースは珍しくありません。
 周囲に気がねなく助けてといえる関係、「なんかあったら声をかけてや」と気にかけられる関係、そんな地域のつながりづくりが今求められています。また、地域には色んな人たちが住んでおり、言葉で自分の気持ちを伝えることができない人たちも多くいます。八木一男福祉会は、生活に様々な困難を抱えた人たちを包みこむ地域づくりを進めるため、今年も頑張っていきたいと思います。