にこにこ通信 114号 ~ヒロさんとタカさんの不思議な関係~

 夏休みが終わり、放課後等デイサービスを利用していた子どもたちは、元気に学校へ通い始めました。朝からやって来る子どもたちのいない児童館では、にこにこで生活介護を利用されているヒロさん(20歳)とタカさん(43歳)が過ごされています。
 ヒロさんは、毎朝児童館に到着すると、作業着に着替え、足のストレッチをすることから始められます。その後、空き缶つぶしや古新聞・ダンボールの運搬などの軽作業、買い物や畑仕事のお手伝い、天気の良い日には運動も兼ねて周辺を散歩されたりします。
 タカさんは、バイタルチェックを済まされた後、スタッフと談笑をしながら判子押しや館内の掃除機がけなどをしてくださいます。時には、ヒロさんと一緒に買い物へ行かれることもあります。また、子どもたちが学校から帰って来る日には、積極的に子どもたちの相手をしてくださり、子どもたちが嫌いな「お片付け」も、優しく声かけをしながら一緒に手伝ってくださいます。
 そんなヒロさんとタカさんは、とても不思議な関係を築かれています。
 ヒロさんは、日常生活において、様々な支援を必要とされている方です。着替えや排泄時に、スタッフがヒロさんの補助をしている様子を見て、タカさんは、「それぐらい自分で出来やなあかんやろ」「いつまで甘えてんねん」と厳しくおっしゃったり、人を叩いたり、大声を出すヒロさんを見て、「○○君の方が大人しくていいわ」「やかましいのはいらん」というようなことをよくおっしゃられます。ヒロさんも、そんなタカさんの言葉に反応され、タカさんの側に寄って行かれたり、怒ったように唾を吐きかけたりされます。
 普段子どもたちに接する時の優しい言葉遣いとは裏腹に、ヒロさんにはいつまで経っても冷たい態度をとられるタカさんですが、時折こんなことがあります。ヒロさんがスタッフの頭を叩いたりしていた時に、「ヒロ、そんなんしたらあかんやろ」と、子どもたちに言う時のような優しい声音で注意をされたり、一緒に買い物へ行かれた時には、「そっちちゃうぞ、こっちや」と言って、カートを押すヒロさんを呼んでくださいました。
 タカさんは、いつも口癖のように「あいつはいらん」とおっしゃいますが、スタッフが少し側を離れると、自らヒロさんに近付き、ヒロさんに構おうとされます。また、ヒロさんもヒロさんで、タカさんにしつこく構われて嫌がられていても、同じように自分からタカさんに構いに行こうとされることがあります。
 タカさんがにこにこへ来られて間もない頃は、「嫌い」という理由でヒロさんと係わることがほとんどありませんでしたが、毎日児童館で共に過ごされるようになり、お二人の関係に少しずつ変化が見られるようになりました。果たしてそれが良好なのかは分かりませんが、ヒロさんとの係わりによって、無関心であったタカさんの心が動かされたのは事実です。
 これからも長い付き合いになりそうなお2人の今後を、支援を交えながら、静かに見守っていければと思います。