にこにこ通信 20新年号

 要介護の高齢者の生活を支えるには、介護保険等の公的サービスだけでは十分ではありません。隣近所の見守りや声かけ等、地域の住民との連携が不可欠です。

 八木一男福祉会が桜井市東老人憩いの家の指定管理を受けて6年になりますが、開館当時に利用されていたみつえさんの支援を通して、貴重な体験をさせていただきました。

 当時86歳だったみつえさんは、おつれあいに先立たれて市営住宅にひとりでお住まいでした。家族や親戚もなく、収入は年金だけというつつましい生活でした。そのみつえさんに変化が起こってきたのは、利用され始めて半年ほど経ってからでした。お風呂で何回か漏便をされるようになり、近所の家の花を引き抜いたり、突然他人の家に入って行ったりして、認知症の症状があらわれてきました。知人のすすめで要介護認定を受けられましたが、人の世話にはなりたくないということで、ヘルパーさんが来られても玄関のドアを閉じたままという状態でした。しかし、老人憩いの家には毎日のように来られるみつえさんの姿は、私たちにとっては気にかかるところでした。

 そんなある日、みつえさんのズボンに大量の血がついているのを発見しました。見ると、出血は止まっていましたが、かなりの傷で、本人に聞くと痛くないとのことでした。医者で治療を受けることをすすめましたが、救急絆創膏を貼っただけの応急処置の状態で数日が過ぎました。見るに見かねて地域の民生委員に相談をし、人権文化センターや市の高齢福祉課、在宅支援センター、訪問介護の事業所も交えて支援を話し合うことになりました。会議では、みつえさんの生活を支えるために、金銭管理、公的サービス支援、老人憩いの家の昼食サービスを組み合わせることになりました。みつえさんの話では、食事は一回炊いたご飯を三日に分けてきな粉をかけて食べるとのことでした。栄養状態が悪いなかで、冬場にかけては認知症の症状が急に進んでいくようで、食事面での支援は緊急の課題でした。みつえさんの支援の方向は決まりましたが、問題はみつえさんが受け入れるかどうかです。かたくなに人の世話になることを拒否してこられた方でしたので、日頃みつえさんのことを気にかけている近所の方にも協力していただき、みつえさんを説得しました。老人憩いの家では昼食サービスを利用していただくために、試食会と称してみつえさんを招待し、昼食を食べていただくことにしました。そうして、訪問介護と昼食サービスを利用して二ヶ月が経過し、みつえさんの体力は目に見えて回復してきましたが、新たな問題が生まれてきました。

 ある日、みつえさんが大量のマッチを持って老人憩いの家に来られました。聞けば、仏壇のロウソクに火をつけるのに使うとのこと。以前から火の始末が心配でしたので、電球式のロウソクを購入して使うことを近所の方に納得してもらいました。その後、みつえさんは市内のグループホームに入所されましたが、地域で住んでおられたときは、週3回の訪問介護と週1回のデイサービス、老人憩いの家での見守りと昼食サービスを利用して生活されていました。

 このみつえさんのケースは、公的サービスだけでは要介護の高齢者の生活の全てを支援することは難しいことを示しています。特に、近所の方の存在はひじょうに大きいものです。八木一男福祉会は、公的サービスの提供だけにとどまらず、近所の方の見守りや声かけ等の助け合う力を高め、地域の介護力を高めるための活動にも力を注いでいきたいと思っています。