にこにこ通信 13号

 夏休み恒例の「にこにこの部屋」を7月21日から8月31日まで開設しました。今年の「にこにこの部屋」には、知的しょうがい、自閉症、発達しょうがい、ダウン症のしょうがいをもつ10名の子どもたちが会場の人権交流センターに集まり、それぞれのペースで日中を過ごしました。私たちは、「にこにこの部屋」を始めるとき、スタッフとして参加していただいた皆さんと、常に話し合って確認していることがあります。一番大事なことは、子どもたちにとって居心地のよい場所であるということ、そのためには様々なしょうがいをもっている子どもたちのペースに合わせて、子どもたちが何に関心を示しているのかを注意深く見て支援するということです。また、その日の予定は事前に説明して行動を促すことも確認しています。特に、自閉症の子どもたちは、突然に何かをしたり自分のしたいことを否定されたりすることは苦手で、時によってはパニックになってしまいます。その日の予定を、言葉だけではなく、文字や絵、写真も使いながら具体的に説明し、行動を促していかなければなりません。

 そして、今年の「にこにこの部屋」は大台ヶ原の山登りにも出かけました。駐車場から日出ヶ岳までの往復一時間ほどのハイキングコースですが、とかく運動不足になりがちな子どもたちにとっては、少々きついコースです。大ちゃんは「死ぬ、足が痛い、苦しい」と言いつつ、休憩しながらも頂上に着きました。康ちゃんは、道に落ちている石を拾っては、にこにこしながら「これ、食べるわ」と言っては口にもっていき、道に伸びている木の根があればわざわざ越えようとしてつまずき、「危なあ」と叫び、いっしょに歩いているスタッフの様子をうかがいます。洋君は、常に大ちゃんの側にいて気遣いながら歩き、頂上に着いて、雲海を見たとき「うぉー」と叫びました。それぞれ自分たちのペースで往復二時間少々かけて、駐車場に戻ってきました。途中で、夫婦で来られていた年配の女性からは、「あんたたちすごいね、私も頑張らなくっちゃ」と激励の言葉をかけていただきました。私も何回も来ている大台ヶ原ですが、初めてゆっくりのんびりと歩くことができ、今まであまり気にかけていなかった苔の種類や鳥の声、木々の種類なども観察することができ、自然の恵みを感じることができました。

 今の社会では、何かと言えば時間やスピードを基準にして、人間の能力が評価されてしまいがちです。今回の山登りを通して、時間やスピード、言葉だけにとらわれない、人間の生き方をあらためて学んだように思います。