にこにこ通信 6号
デイサービス利用者のNさんは、祭りがとても好きです。
菟田野の水分神社のお祭りは、毎年10月の第3日曜日に行われます。
今年は10月19日でした。10月に入ってからは、「もうじき祭りやなあ」というのがNさんの口癖のようになっています。そのたびにわたしたちは、「そうですねえ、あと○日ですねえ」と答えます。その会話が一日に何回となく繰り返される日々です。
そんな祭りが近づいたある日、Nさんがいつものように「もうじき祭りやなあ」と言ったあとで「うちの子太鼓台、乗ってんで」と続けられました。「へえ、息子さん太鼓台に乗ったんですねえ」と答えると、「かわいらしかったでえ」ととても嬉しそうに答えられました。それからはその30年近く前の祭りの日の話を、とうとうと話し始められました。息子さんが小学校3年生の時だったこと。自分もいい着物を着て白いエプロンを掛けてお宮さんへ行ったこと。近所や親戚の人がたくさん来てくれてごちそうしたこと。
息子さんが化粧して太鼓台に乗って太鼓をたたいて、とてもかわいらしくてうれしかったことなど、いきいきとした表情で話し続けられました。
普段は、わたしたちが言ったことをそのまま繰り返し言ったり、同じ事を何回も言ったりされているNさんですが、この日は次々と言葉が出てきて誇らしい母の顔でした。
ところが、祭りの次の日、デイサービスセンターへ来られても祭りの話は全然されません。「Nさんお祭り見に行って来やはった?」とわたしたちが聞いても「行ってないね」と素っ気ない返事です。祭りをあんなに楽しみにしておられたのは、なんだったのかとふしぎな感じです。
季節感や時間の感覚がわかりにくくなるのが、認知症のひとつの症状と言われていますが、Nさんを見ているとお盆前にはお盆の話、祭りの前には祭りの話と、確実にNさんのなかには季節感があります。そういうNさんの感覚を大切にしてご利用者さんと共に季節の移り変わりがわかりやすい田舎で、ていねいに日々を過ごしていきたいと思っています。
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